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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(新れ)483号 判決

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人相沢登喜雄上告趣意について。

所論は、検察官の第一審における個々の立証趣旨の陳述の外刑訴二九六條に規定する証拠調の立証事項に関する冒頭陳述がなされていないことを非難するものである。元来、英米法における陪審は、検察官の起訴状朗読の際に構成されているものではなく、被告人が検察官の朗読した起訴状に対し無罪の答弁を為し又は黙秘した場合にその後初めて構成されて法廷に出席するものである。されば、検察官の立法事項についての冒頭陳述は、主として初めて入廷した陪審員に対し起訴事実を知らせるため、これを行う必要を生ずるものである。しかるに、わが刑事訴訟法の第一審の公判手続における証拠調は、検察官の起訴状の朗読、これに対する被告人及び弁護人の陳述が終った後同一の裁判官の面前において引続きこれを行うものであるから、かかる冒頭陳述を行う必要性に乏しく、従って、同條所定の冒頭陳述は、訴訟の状況に応じ適宜或いは既に朗読した公訴事実を引用し又はその冒頭陳述に代えて個々の立証趣旨を陳述するを以て足りるものと解するを相当とする。

されば、本件において既に個々の立証趣旨の陳述がなされている以上同條所定の冒頭陳述がなされていなくとも違法といえないばかりでなく、何等判決に影響を及ぼさないこと明らかであるといわなければならない。しかのみならず、論旨は、刑訴四〇五條に定める事由に該当しないから、いずれにしても採用することはできない。

弁護人岸永博上告趣意について。

しかし、所論盗難被害顛末書三通は、その記載自体で明らかなように単なる意見又は想像を内容とするものではなく、調査の結果判明した被害事実を記載したものであるから、書類としての証拠力を有するは勿論本件窃盗事実を裏書するに足る有力な証拠である。そして、第一審判決は所論被告人の自白の外右顛末書をも証拠としたものであるから、被告人の自白を唯一の証拠とした場合に当らない。

それ故論旨は採用できない。

よって刑訴四〇八條に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 穂積重遠)

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